ヴィシュヌ立像(扶南、シュリーヴィジャヤ様式)その4 [ベトナム発]
折れた腕はまだ接着剤で付けていませんが写真屋で撮影して来ました。真正面と真後ろからの写真(写真1、2枚目)では分からないですが、3枚目以降の写真のように上半身が斜め上に反っています。背中側からもしなっているのが分かると思います。プノンペンのカンボジア国立博物館に展示されているヴィシュヌ神像(参考写真6枚目)と同じく背筋を伸ばして少し上を見つめています。首が太く、がっしりとした体格で迫力ある造形です。タイ中部のドヴァーラヴァティー期のものは砂岩製の法輪や石仏の他に漆喰やテラコッタ、青銅製等、いろいろな材質から像が作られていますが、タイ南部シュリーヴィジャヤ期のものはテラコッタや漆喰製のものはあまりありません。タイ中南部のラーブリーやペッブリー県にはドヴァーラヴァティー期の漆喰やテラコッタ製のものが多く作られていますが、南部のチャイヤー(スラータニー県)より南は石像(石造彫刻)がメインになるように思います。インドネシア国立博物館の古代彫刻も石像がメインなので、チャイヤー付近を境にシュリーヴィジャヤ文化圏になるのかもしれません。またタイ南部からタイ湾を越えた東側のベトナム南部(カンボジア南部)の扶南やプレアンコール期(真臘)のものもテラコッタや漆喰製のものを博物館であまり見ることはなく石像の割合が高いと思います。これまで東南アジア初期のもの(特にドヴァーラヴァティー期)をいろいろ入手してきた中で石像は今回が初めてでしたが、本当に素晴らしいです。当然、数多くコピー品が作られていますが、東南アジア各国の博物館の展示物をしっかり勉強していればそれらはすぐに分かります。この像に出会えたおかげで石造彫刻についてかなり勉強が出来ました。近いうちに3年前に行ったベトナム南部やカンボジアに再確認をしに行こうと思っています。
<追記>2022年7月9日 バンコク国立博物館に展示されているタイ南部スラータニー県で発掘されたヴィシュヌ神像の写真を掲載します。同様に上半身が斜め上に反っており、背筋を伸ばして頭部は少し上を見つめています。腹部の肉付きもよく似ています。参考まで。
Lost Kingdoms: Hindu-Buddhist Sculpture of Early Southeast Asia (Fashion Studies)
- 作者: Guy, John
- 出版社/メーカー: Metropolitan Museum of Art
- 発売日: 2014/05/06
- メディア: ハードカバー
ヴィシュヌ立像(扶南、シュリーヴィジャヤ様式)その3 [ベトナム発]
以前(その2)まで書き、追記を繰り返して来た記事「ヴィシュヌ立像(シュリーヴィジャヤ様式)」の続き(その3)を書きます。写真2枚目〜5枚目はホーチミン市の歴史博物館に展示されているヴィシュヌ神像(7世紀、アンザン省出土、オケオ文化)ですが2012年に国宝に指定していされています。写真3枚目は博物館の記述です。この青銅製の像と石像を比較してみました。比較写真(写真6枚目)を見ての通りスタイル、体のライン等、美術様式がとても近いことが分かると思います。石像はタイ南部から出土したものですが、ブログ記事(その1、その2)でも書いた通り、やはりベトナム南部オケオ付近で作られたものではないかと思います。文献の記述を参考にすると年代は7世紀後半のものだと思います。ブログ記事(その1、その2)のリンクを貼り付けておきます。
https://thaiart.blog.ss-blog.jp/2021-10-10
https://thaiart.blog.ss-blog.jp/2021-10-23
Lost Kingdoms: Hindu-Buddhist Sculpture of Early Southeast Asia (Fashion Studies)
- 作者: Guy, John
- 出版社/メーカー: Metropolitan Museum of Art
- 発売日: 2014/05/06
- メディア: ハードカバー
ヴィシュヌ立像(シュリーヴィジャヤ様式)その2 [ベトナム発]
写真1枚目は先日入手したタイ南部出土のヴィシュヌ立像(砂岩製)です。写真2、3枚目は文献に掲載されているベトナム南部アンザン省に隣接するドンタップ省で1998年に出土したヴィシュヌ立像(砂岩製)の発掘時の写真です。約1.6メートルとかなり大型のものです。今回は扶南国の港市があったと言われているオケオ(アンザン省)の近郊で出土したこのヴィシュヌ立像と比較してみました。写真4、5枚目はこれら(サイズはまったく異なりますが)2点を比較してみたものです。手持ちの限られた写真を使った比較になりますが、写真4枚目では鼻筋の通った彫りの深い顔、インド(西洋?)的な顔付き、また正面を見据えた姿勢もよく似ています。写真5枚目は胴体部分の比較ですががっしりとした体つきや胸部から腰までの体の曲線等、そっくりなのが分かります。また砂岩表面の比較においても約1300〜1400年の間、地中にあったという同条件の為かとても近い状態になっています。おそらく偽物ではこの状態は作れないと思います。今回入手した(左側の)像は(破損箇所の接着補修はありますが)出土時のほぼオリジナルの状態のままだと分かりました。写真6枚目は出土地のドンタップ省博物館に展示されているレプリカだと思います。出土時の写真も掲載されているようです。最後の写真3枚はオケオ古代都市跡にある博物館の写真です。周辺の出土品の展示と他の博物館に展示されているオケオ周辺出土の神像の写真が掲示されています。いずれ行くつもりです。今回比較に使ったドンタップ省出土のヴィシュヌ立像の写真(一番下の写真左側)も掲示されており、記述には7〜8世紀となっています。ここまでの考察から今回入手したタイ南部出土のヴィシュヌ立像は扶南国支配期7〜8世紀に作られたものだと思います。
<追記>2021年10月29日 先日、鈴木峻さんの「扶南・真臘・チャンパの歴史」(めこん)を読んでかなり勉強になったので下にリンクを追加しておきます。この本を読み終えて、今回手に入れたヴィシュヌ像はおそらく扶南から盤盤地区(現在のスラータニーやチャイヤー)に移住した職人(仏師)によって造られたものだと思いました。
<追記>2021年12月7日 カンボジア国立博物館蔵のスカンダ(軍神 64センチ、出土地不明)の写真(1、2枚目)を掲載します。スカンダはシヴァ神の息子で孔雀の背に直立しています。年代はプレアンコール期 7世紀初め頃のものです。写真3〜5枚目はこのスカンダ像とヴィシュヌ像を比較したものです。顔や斜め上に反った姿勢等よく似ており製作年代も近いと思っています。
<追記>2022年3月14日 ベトナム南部カントー省立博物館に提示されている扶南時代の石像写真を追加します(写真1、2)。展示品の記述はまだ見ていませんがオケオ周辺で出土したものです。写真左下に石像がありますが左側のものが今回入手した石像と作風やサイズもかなり近いように見えます。もしかしたら今回入手したものはオケオ周辺で作られてからタイ南部の盤盤地区(現在のスラータニーやチャイヤー) に運ばれたものの可能性もあるといえます。年代的にはほぼ同時期に作られたものだと思います。写真3枚目は撮影角度は異なりますが並べて比較したものです。参考まで。
<追記>2022年6月19日 記事の続き(その3)を書きましたのでリンクを貼りつけておきます。https://thaiart.blog.ss-blog.jp/2022-06-19
Arts of Ancient Viet Nam: From River Plain to Open Sea (Museum of Fine Arts)
- 出版社/メーカー: Museum of Fine Arts Houston
- 発売日: 2009/03/24
- メディア: ハードカバー
東南アジア初期の美術 西側の影響 [ベトナム発]
タイのドヴァーラヴァティー期、カンボジアのプレアンコール期等、東南アジア最初期の仏像やヒンズー神像の彫刻には源流に近いインドのグプタ美術やアマラーヴァティー美術などの影響が見られ、それが初期の像の魅力の一つと言っていいと思います。写真はチャンパ初期(ベトナム南部)のものとしてかなり以前に入手したテラコッタ製の頭部で2年ほど前に訪れたベトナム南部オケオ周辺の博物館の展示物からおおよその出土地や年代を知ることが出来ました。しかし周辺の出土品と比較してもこの個性的な顔立ちの由来は説明出来ません。先日、オリエント美術の文献を眺めていたところ(他人のコレクションなので掲載出来ませんが)インド・グプタ朝とほぼ同時期のササン朝ペルシア(現代のイラン周辺)の出土品に似た顔付きのものがありました。ベトナム南部等、インドシナ半島沿岸部は6世紀以前からインドやさらに西側と東西の交易があり沿岸部に近いポイントでローマ帝国時代の硬貨が古代ビーズと共に出土しています。もしかしたらこのテラコッタ製頭部もインドよりさらに西側(西アジア)の美術の影響を受けたものかも知れません。異国的で不思議な魅力がある頭部で気に入っており、今後も追究をしていくつもりです。この頭部とベトナム南部の博物館蔵品を比較してみた過去の記事を貼り付けておきます。https://thaiart.blog.ss-blog.jp/2019-06-24
<追記>2021年7月22日 タイ人コレクターから参考になる意見が聞けました。それは「テラコッタ製の頭部上部の三角に尖ったものは宝冠のように見えるので、そうであればおそらくこの頭部はプレアンコール期の神(菩薩)だろう」。追加写真2枚目は文献に掲載されている青銅製の神像(タイ ブリラム県プラコーンチャイ出土、8世紀)でフィラデルフィア美術館のコレクションです。この像の頭部の宝冠はテラコッタ製頭部に似た三角の形状をしています。かなり昔の記憶ですがこの三角状の宝冠はもともとチャンパ(チャム)特有の美術様式だったと思います。よってプラコーンチャイ出土の青銅神像は逆にチャム美術の影響を受けたものだと思います。以上のことから(ベトナム南部出土の)このテラコッタ製頭部の宝冠部が三角状をしているのはチャム美術本来の美術様式と言っていいと思います。参考まで。
<追記>2021年11月5日 当時「チャンパ初期」のものとして入手しましたが正しくは「扶南」のものです。
Lost Kingdoms: Hindu-Buddhist Sculpture of Early Southeast Asia (Metropolitan Museum of Art Series)
- 作者: Guy, John
- 出版社/メーカー: Metropolitan Museum of Art
- 発売日: 2014/05/06
- メディア: ハードカバー
扶南(プレアンコール) 頭部 [ベトナム発]
チャンパ初期(ベトナム南部)ガラス製の頭部(写真1〜4枚目)です。材質的には古代ビーズに近いと思います。ケースから出して撮影しました。はっきりと分かっていませんがヴィシュヌ神か菩薩の頭部だと思います。今回はメトロポリタン美術館に展示されている弥勒菩薩像(ブロンズ製、写真6〜8枚目)と比較(写真5枚目)してみました。違いはありますが年代的には近いと思います。このようにパッチリと目を見開いた像は(タイ国境付近を含めた)カンボジアのプレアンコール期やベトナム南部(オケオ周辺)で出土した像に見られます。以前ベトナムの博物館で見たヴィシュヌ神(石像頭部)の記事を貼りつけておきます。こちらの方が近いかもしれません。参考まで。https://thaiart.blog.ss-blog.jp/2019-07-03
<追記>2020年11月18日 ホーチミンの博物館の展示品(6世紀、プノン・ダ様式のヴィシュヌ神像頭部)と比較して見ました。やはりヴィシュヌ神の顔に近いような気がします。参考まで。
<追記>2020年11月28日 先日、飛鳥(白鳳)美術の勉強をしに奈良に行った際、飛鳥資料館で見た古代ガラスの写真を追加しておきます。日本産のガラスが製造され始めたのは飛鳥時代7世紀後半から、百済からの技術交流で初めて可能になったようです。このガラス製の頭部も同時期頃に同様の方法で作られたものではないかと思いました。
<追記>2021年11月5日 記事のタイトル「チャンパ初期(プレアンコール) 頭部」を「扶南(プレアンコール) 頭部」に変更しました。
<追記>2023年9月24日 オケオ文化の文献に掲載されているオケオ出土の古代ビーズの写真を掲載しておきます。実際に博物館の展示品を撮影した写真よりも綺麗で表面の材質感も分かりやすいです。写真3枚目が文献のビーズ(古代ガラス)と頭部を比較(色、材質感)してみたものです。参考まで。
Lost Kingdoms: Hindu-Buddhist Sculpture of Early Southeast Asia (Metropolitan Museum of Art Series)
- 作者: Guy, John
- 出版社/メーカー: Metropolitan Museum of Art
- 発売日: 2014/05/06
- メディア: ハードカバー
ベトナム国立歴史博物館(ハノイ) [ベトナム発]
先週初めてハノイに行って来ました。首都ハノイのあるベトナム北部は中国国境にも近い位置にあり、西側の山岳部はラオス国境と接しており、ベトナム南部と異なりカンボジアには接していません。ベトナム中部のチャンパ王国のあったミーソン遺跡はクメール美術(カンボジア美術)の影響を受けていますがベトナム北部やハノイ周辺の発掘品は純粋なベトナム美術と言っていいのかも知れませんが古い時代のものは中国・唐の影響(写真12枚目、15枚目)を受けおり、南部とは美術様式が違ってきています。そのことからハノイに来るのが後回しになってしましました。ところが今回訪れたハノイ中心部にあるベトナム国立歴史博物館にはベトナム南部のオケオやホーチミン周辺の扶南時代の出土品の展示室がありホーチミン市歴史博物館でも見られた東南アジア最初期(4〜6世紀)の大型の仏像が2体展示されていました。扶南国(オケオ文化)のものです(写真1〜9枚目)。本当に素晴らしい一木造の仏像で事前に情報を得ていなかったのですが見ることが出来てラッキーでした。またミーソン遺跡出土の石像も展示されていましたがその中でも最初期(7〜8世紀)の石像頭部が写真10、11枚目です。写真13、14枚目はハノイ周辺から出土したもので龍や鳳凰がデザインされています。タイやカンボジア、ベトナム南部にはない美しい美術様式です。簡単ですが報告まで。
Lost Kingdoms: Hindu-Buddhist Sculpture of Early Southeast Asia
- 作者: John Guy
- 出版社/メーカー: Metropolitan Museum of Art
- 発売日: 2014/05/06
- メディア: ハードカバー
チャム彫刻博物館(ダナン) [ベトナム発]
先月行ってきたベトナムの続きです。ホーチミン市からベトナム中部の都市ダナンに移動しチャム彫刻博物館に行ってきました。チャムの彫刻はミーソン遺跡で発掘された10世紀頃のものがメインですが年代的には5世紀から15世紀頃までとかなり長い期間造られています。ほとんどが砂岩製の彫刻ですが1点大型の青銅像(国宝)が展示されていました。最後の3枚の写真はその後に移動したフエ王宮に隣接しているフエ宮廷美術博物館で撮ったものです。ここにもチャンパ時代の彫刻が一部展示されていたので一緒に掲載しておきます。
Cham Art Hindu-Buddhist Art of Vietnam: Treasures from Champa
- 作者: Emmanuel Guillon
- 出版社/メーカー: Thames & Hudson Ltd
- 発売日: 2001/04/23
- メディア: ペーパーバック
仏像の目で年代が分かる(その8) [ベトナム発]
かなり以前(2007年)にこのブログで記事にした「チャンパの宝」→(変更後)「扶南の宝」です。金ケースに入れていますがガラス製のチャンパ初期の頭部(写真1枚目)です。材質は古代ガラス(古代ビーズ)に近いものだと思います。今回はこの頭部とFine Arts Museum(ホーチミン市)に展示されている砂岩製のヴィシュヌ神像頭部(6〜7世紀、アンザン省出土)と比較して見ました。材質、サイズ、製作工程等、全く異なりますが目の形状や全体のバランスはかなり近いと言っていいと思います。ガラス製の頭部には大きな耳飾りを付けているのでもしかしたらスーリヤ神(太陽神)かもしれません。写真5、6枚目はオケオ周辺で出土したビーズ等(アンザン省博物館蔵)です。参考まで。以前の記事のリンクを貼り付けておきます。https://thaiart.blog.so-net.ne.jp/2007-09-04
<追記>2021年11月5日 当時「チャンパ初期」のものとして入手しましたが正しくは「扶南」のものです。
Lost Kingdoms: Hindu-Buddhist Sculpture of Early Southeast Asia
- 作者: John Guy
- 出版社/メーカー: Metropolitan Museum of Art
- 発売日: 2014/05/06
- メディア: ハードカバー
ホーチミン市美術館(Fine Arts Museum) [ベトナム発]
この博物館(入口正面の黄色の建物)には戦時中を含む近代から現代にかけてのベトナム人画家の絵画が展示されていますが、敷地内奥の白い建物内に東南アジア初期の石像コレクションがあることはあまり知られていないと思います。展示物はオケオ周辺やカンボジアと隣接するベトナム南部出土の6〜8世紀頃のものがメインで文献に掲載させているものも数点ありますがそれ以外のものも負けず劣らずの優品です。また歴史博物館の展示物と比べ手ごろなサイズのものが中心で個人コレクターにとってはどれも部屋に置きたくなるものばかりでした。という訳でほとんど人が来ない展示ルームで束の間のオーナー気分を味わいました。
Lost Kingdoms: Hindu-Buddhist Sculpture of Early Southeast Asia
- 作者: John Guy
- 出版社/メーカー: Metropolitan Museum of Art
- 発売日: 2014/05/06
- メディア: ハードカバー
歴史博物館(ホーチミン市) [ベトナム発]
ベトナムの旅の続きです。20年以上ぶりに行ってきました。インドシナ様式と言われるとても雰囲気のある古い建物ですが内部は以前に比べてすごく良くなっていました。展示内容も素晴らしく、特にベトナム南部、オケオ周辺で出土した東南アジア初期(4〜8世紀頃)の仏像、神像は文献に掲載されているスター級のものばかりです。もちろんチャム王国時代の石像も充実しています。私も20年前に比べて目が肥えてきましたが改めて来て見てこの博物館の凄さを実感しました。
Lost Kingdoms: Hindu-Buddhist Sculpture of Early Southeast Asia
- 作者: John Guy
- 出版社/メーカー: Metropolitan Museum of Art
- 発売日: 2014/05/06
- メディア: ハードカバー